伊坂商事株式会社~社内恋愛録~



結局、俺は篠原班長を残し、ひとり会社を後にした。



このままでいいのか?

いや、でも、俺がいたらあの人は泣くことすらできないし。


だからって、帰るのか?


きっと明日になればあの人はまたいつも通りに戻って、張り切って次の企画に燃えるはずだ。

いやいや、マジで辞めたらどうすんだよ。



「あー、もう! くそっ!」


頭を掻いて、俺はきびすを返す。


走って社内に戻り、5階の企画課へと急いだ。

廊下を突き進み、奥のドアに手を掛けようとしたところで、中から聞こえた話し声。



「なぁ、亜里沙。もういいだろ? お前は十分よくやったよ。でも、だからこそ、もういいじゃないか」


誰だ?

まさか、山辺さんか?


いや、しかし、だとしても、山辺さんがどうして篠原班長を『亜里沙』と呼ぶ?



「俺といればいい。あの頃みたいに。ふたりで楽しかったじゃないか」

「ヨリを戻そうって言いたい? 馬鹿じゃないの」

「俺と結婚しろよ。仕事なんか辞めてしまえば、お前が俺に対して意地を張る必要はなくなるだろ?」

「雄二は何もわかってない。4年前と同じこと言わせないで」


何となくわかった。



このふたりは、4年前に付き合ってて、でも別れた。

その理由は、多分、篠原班長のコンプレックスの所為だろうけど。


山辺さんを目の敵にしていたのは、このためか。


帰ろうと思った。

今度はほんとに、俺はここにいるべきじゃないと思ったから。




なのに、刹那、