いつものように、社食に行くために篠原班長と廊下を歩いている時だった。
トイレの近くを通りかかった時、
「っていうかさぁ、お前、山辺さんの班で羨ましいよ」
ふと聞こえてきた声に、俺たちの足が止まった。
と、いうか、正確に言えば、いの一番に篠原班長が反応したから、俺も足を止めざるを得なかったわけだけど。
「俺なんて篠原さんの班だぞ?」
「いいじゃん、篠原さん。美人だし、できる女って感じだろ」
「どこがだよ。文句ばっかだし、山辺さんの班を目の敵にしてるだけ。ツンツンしまくってて、仕事の鬼で、あれじゃあ、男ができなくて当然っつーか?」
「言い過ぎ」
「いや、マジで。もうほんとやだよ」
俺は、横にいる篠原班長の顔が見られなかった。
「その点、山辺さんはいいよ。一緒の班にいるだけで、企画が通れば楽してこっちまで評価上がるんだから」
「まぁ、いくらできるっていっても、女の下じゃあ、出世も給料アップも厳しそうだよなぁ」
「俺、課長に言って、班替えしてもらおうかなぁ。違う班長の下で経験を積みたいです、とか何とか言ってさぁ」
篠原班長は、息を吐き、止めていた足を再び前へと進めた。
瞬間、篠原班長の存在に気付いた連中は、やばいという顔で焦り出す。
が、時すでに遅く、
「私が嫌ならそれでいいけど、ろくなアイディアも出せないやつは、どこの班にいても出世も給料アップも望めないと思うけど。文句があるなら私より上になってから堂々と言いなさいよ」
「……いや、あの……」
「それに、影で女を馬鹿にすることしかできないあんたらがモテるとは、私には思えないんだけど。他に悪口があるから、ついでだから聞くわよ」
「す、すいませんでした」
蜘蛛の子を散らすように逃げる、企画課の若い連中。
お見事です、篠原班長。
なんて、のん気なことを思っている場合ではない。


