伊坂商事株式会社~社内恋愛録~



次の企画会議まで、あと一週間。

俄然張り切る篠原班長。



「しのちゃん」


そんな折、企画課に現れた、営業課の宮根さん。

曰く、『姉弟みたいなもん』で、篠原班長にとっては『大学の後輩』で『弟分』らしいけど。



「これ、頼まれてたやつね。俺の、門外不出の営業資料。それから、顧客データと今までの統計も」

「わー。ほんっと、恩に着るー」

「特別だよ、こんなことするのは。だからこれで前回の借りはチャラにしといてよ」

「っていうか、私の企画が通ったら、奢るし」


営業課の資料まで持ち出すってことは、篠原班長の意気込みは相当なものらしい。

いつもにも増して、気合いでぎらぎらしてる瞳。


宮根さんは肩をすくめ、



「しのちゃんが頑張ろうとするのは、単に仕事が好きだから? それとも、個人的感情の所為?」


ぴくっ、と、篠原班長の眉が動いたのを、俺も宮根さんも見逃さなかった。



「余計な意地はいつか自分の首を絞めるよ」

「まさかあんたにお説教される日がくるなんてね」

「そうやっていつも人の話を突っぱねる。4年前から成長してないんじゃない?」


宮根さんは、篠原班長を見透かすような目だ。

篠原班長は、ぐっと唇を噛み締めた。



「言われなくてもわかってるわよ」


ぼそりと言った後、



「宮根、ありがとう。これ、借りるね」


努めて冷静に笑顔を作った。


何の話かわからない。

俺は蚊帳の外ってことかよ、くそっ。