伊坂商事株式会社~社内恋愛録~

「気が強くても、所詮は女だな」


阿部課長は私の上に馬乗った。



「やだ! やめて! 離して! 気持ち悪い!」


暴れたら、また平手が飛んできた。

私はあまりの恐怖に泣きじゃくるしかできなくなって。


阿部課長は私のシャツを引き裂くようにしてボタンを飛ばし、荒い息を吐き掛けてくる。



「意外にでかい胸をしてるんだな」


気持ち悪い。

そう思った瞬間、私は傍に散らばっていたファイルを手繰り寄せ、阿部課長に叩き付けた。


ちょうど角が当たったのか、阿部課長は「くそっ」と体勢を崩す。


私は渾身の力で阿部課長を突き飛ばし、足をもつれさせながら、フロアから飛び出した。

エレベーターを待ってる時間はないから、階段を駆け降りる。



「待て、北澤!」


転げるように階段を降りた時、



「……美紀ちゃん?」


山辺さんと会ってしまった。

私ははっとして胸元を隠すが、時すでに遅かったらしい。


山辺さんは私の手を引き、どこかの部屋に私を連れ込んだ。



「これは、どういうこと?」


何も答えられなくて、私は顔をうつむかせてしゃくり上げた。



「見ないで。何でもないから。山辺さんに迷惑かけたくない」

「もうそういう場合じゃないだろ」


低い声で一喝される。

私はそれでも首を振った。



「大丈夫だから。何もされてないから。逃げてきたから。だから山辺さんも気にしないで。私が辞めればいい話だから」