伊坂商事株式会社~社内恋愛録~



誰もいなくなったフロアで、私はデスクにうな垂れた。

書類が終わる気がしないけど、もうやる気もない。


辞めるとしても一ヶ月以上前から言わなきゃダメだから、その期間、これに耐え続けるのもめんどくさい。


いっそ、出社拒否しようかな。

人事課だから社員データを書き替えたり削除できたりするし、そうすれば我が家の住所も電話番号も知られないだろう。



「私、頭いいかも」


なんて、ひとりで現実逃避しながら笑っていたら、



「北澤」


はっとして、顔を上げた。


阿部課長が立っていた。

私の顔は引き攣っていく。



「何ですか?」

「辛いだろう? 仕事」

「誰の所為で」

「そうさ。だから、優しい俺は、お前にもう一度選択のチャンスを与えてやろうと思ってな」


阿部課長はつかつかと歩み寄ってくる。

私は思わず席を立ち、後ずさりした。


だけど、決して広くはないフロアで逃げられるはずもなく、私はどんどん角に追い詰められていく。



やばいと思った私に、阿部課長はにやりと薄気味悪い笑みを浮かべ、



「俺との関係を持てば、今までのことを水に流してやるぞ? 評価も書き替えてやる。人事課長としての権限で、お前の給料アップも進言できる。空残業も打ち放題だぞ?」

「何それ。あんた最低。職権乱用とかクソみたい」


瞬間、ばちんと殴られた。

私は床に転げる。


頬の痛みと恐怖がピークに達し、体中が震え始める。