伊坂商事株式会社~社内恋愛録~



山辺さんとお酒を飲むことは、日常化した。


何時になっても電話したら出てくれる山辺さんは、いつも文句も言わずに付き合ってくれ、その上、毎回奢ってくれる。

「今日こそ私が払う」と言っても、毎度毎度、「じゃあ、また今度ね」と言われるだけ。



さすがにここまでいい人を気取られると、『友達』の域を超えまくっている気がする。



「山辺さんって、ほんとよくわかんないよねぇ。腹黒だって宮根さんが言ってたけど、まさか何か企んでる?」

「一体、何の話?」

「だって、暇じゃないでしょ、山辺さん。ワーカーホリックのくせに、いつ私が誘っても来てくれるじゃない」

「それは、俺も美紀ちゃんと飲みたいと思ってるからだよ」

「うわー。ありがちな口説き文句」


山辺さんは爽やかな笑みを崩さないままだから、ある意味ではその辺のナンパ野郎よりタチが悪い。

本気でいい人を気取りたいだけなのか、それともほんとは私を口説いてるのか、まるでわからなくて。



「っていうか、俺は別に、腹黒いつもりはないよ。そりゃあ、宮根くんは棘のあることばかり言うから、こっちも応戦してしまうけど」

「………」

「でも、自分では、まわりに気遣って、配慮を怠ってないつもりだ。それなのに、みんな俺に対して『人の気持ちがわかってない』とか言うんだから」


山辺さんは肩をすくめた。

私はちょっと笑う。



「まぁ、確かにあんまり人の気持ちとかわかってないよね。悪気はないんだろうけど、自分のものさしですべてを考えちゃうタイプっていうか」

「美紀ちゃんにまで言われると、きついな」

「でも、私は嫌じゃないけどなぁ、そういうの。人のこと考えないやつよりはずっといいでしょ」

「空まわりしてても?」

「いいじゃん。山辺さんって他が完璧なんだし、そういうところがあった方がおもしろいと思うよ」

「……『おもしろい』って」

「山辺さんって実は、おばあちゃんっ子で、笑うと可愛い顔になって、あと、毎回つくね頼んでて子供みたいで。意外性だらけで、私こんなにおもしろい人いないと思ってるんだけど」