伊坂商事株式会社~社内恋愛録~

何だか嫌味の応酬みたいになってきた。



「ちょっと。何の話か知らないけど、ふたりとも、ここで言い争わないでよ。すっごい迷惑なんですけどー」


宮根さんはふんっと鼻を鳴らし、私に「これよろしく」と言って書類を押し付け、足早に人事課を出ていく。

山辺さんはその背を見送りながら、肩をすくめていた。



「何? ふたりって仲悪いんだ? 有名人同士なのに」

「宮根くんが一方的に俺を嫌ってるだけだよ」

「ふうん」


だけど、おもしろいものを見られたなと思った。



「で? どうしたの? 何か用?」

「これを頼もうかと思って。っていうのは口実で、様子見にね」


山辺さんは目だけで阿部課長の方を一瞥した。

相変わらず、紳士だこと。



「まぁ、『友達』だしね」

「そんなに過剰反応しなくていいって」


ひそひそと話していると、



「北澤」


阿部課長は私を呼んだ。

私は「ごめんね」と山辺さんに言い、仕方がなく阿部課長のところに向かう。



「昨日の分、全部やり直しだ。こんな程度のことすらできないんじゃ、犬や猫の方がマシだな」


フロアに聞こえるくらいの声で言われた。

わざとだということはわかっている。


私は怒りを押し殺し、努めて平坦に「すいませんでした」と言った。



阿部課長は私を睨み、小声でさらに言う。



「あんなやつらにちょっとちやほやされてるからって、いい気になるなよ。余計なことを喋ると許さないからな」