「あのー、休憩中のところすみません。
次のカットについてなんですが……」


夏も盛りを過ぎたとはいえ、まだまだ暑い。

次の衣装に着替え、ほんの少しだけ涼んでいると、担当の編集者が声を掛けてきた。



「はい、何でしょう?」


人当たりの良い、紳士然とした笑顔で続きを促す。


するととても熱心な編集者さんは安心したように、それでいて興奮したように捲し立てた。


「実は読者の方からたくさん要望が出ているんです。
“前髪を下ろした斎賀さんが見てみたい”って。
お仕事の時はいつも上げていらっしゃいますよね?
でも、きっと下ろしても格好いいんだろうなって思うんです!!」


「つまり?」


彼女のもって回ったような言い方に若干の苛立ちを覚えながら問う。

彼女は僕の眼光が鋭くなったことに気付かなかった。




「次のカット、前髪を下ろして撮影させて頂けたらなぁと」

「お断りします」


にっこりと、だけどきっぱりと笑顔でもって拒絶する。



「そんな……」


にべにもなく断られたことが信じられないのか、彼女は落胆の色を隠しきれていない。

それさえも僕にはどうでも良いことのように感じられて、腰掛けていた椅子から立ち上がった。