「あ、生徒指導室だけど、そんなに気にしないで。」

「はい。」


どうやら怒られるわけではないようで。


でも、怒られた方がまだましだった。


「薫さん、海外留学に興味はない?」

「海外留学、ですか?」


「アメリカにホームステイしていろんなことを学んでくるの。特に、薫さんにはぴったりだと思ってね。」


「僕にピッタリとは?」


「執事の仕事にピッタリなのよ。」



その言葉に一番驚いたのは紛れもなく僕の心だった。

先生は僕が執事だということを知っていた。


それは入学するときに緋絽さんと真紀子さんが話したことだから。



でも、執事の仕事を学べるアメリカ留学―――


心のどこかで惹かれている自分がいた。


「今すぐにとは言わないから。でもできるだけ早くに」
「僕、行きます。アメリカに。」


「え?」


先生はきっと驚いただろう。

でも、僕は言っていたんだ。


わくわくしていたんだ。

だから―――


「行かせてください。お願いします。」


頭を下げる僕に「そんなことしなくても、行けるから」と少し焦る先生。





僕は、アメリカへ留学することになった。


もっと、姫乃にふさわしい人になるために。