背に吹き抜けるは君の風


「どど、どうしよう紗江、これ高級な紫紺系の墨だったのにー!」

「それより、どうすんの、この汚れー!なんでキャップちゃんと閉めてないの!ししかも見事に前の席の安藤の机にまでかかってるよー!」

「ぎゃあ、本当だ真っ黒ー!」

もうあたしたちはパニック状態で既に何を話しているのか自分でも分からなくなってきていた。

隣りの席の圭祐(けいすけ)は……まあいいとして……その前に悠人はどうしよう。

絶対に怒られる。

絶対、絶対、怒られる。

急激に焦りの感情がわいてきて、手のひらは既に汗ばんでいた。

「ティティティ、ティッシュ!テッシュ!」

「だあほ!ティッシュなんかで拭き終わるか。雑巾持ってこい、雑巾!」

「はっ、そっか雑巾」

あたしは慌てて掃除用具をあさった。

奥底に眠っていたのは絞ったまま放ったらかされた雑巾。

もうカチカチだった。

それを水につけてなんとかとかしたけれど、墨は思ったより手強くてなんど吹いても完全には落ちなかった。

バタバタ先生たちが教室に入ってくる。

「うわっなんだこれは!?」

「綾代、いま窓から誰か入ってこなかったか!?」

あたしは無言のまま、首を縦に振る。

「そいつはどっちへ向かった!?」

黙ってあいつが向かった方を指さす。

「そうかありがとう!」

また先生たちはバタバタ足音をたてながら教室を出ていった。