背に吹き抜けるは君の風


教室の外から、大勢の足音がする。

「やべっ!じゃあ俺、行くから。」

そう言うと名前も知らないそいつは、パッと立って廊下へと出ていってしまった。

帰り際に、扉から顔をちょっと出して、

「迷惑かけて悪かったな!」

またあのきれいな笑顔を残して、消えた。

「だれだあいつ?」

紗江が腕組みをしながらあいつが消えていった方向を見る。

(あ、紗江のこと忘れてた…)

「学ラン着てたから、中学生か?」

机に手を置いて立ち上がろうとしたとき、何かに肘をぶつけてしまった。

一気にザァ―っと血の気が引いたのがわかった。

あたしが落としたのは、なんと超巨大ボトルの墨。

「―――あっ、待っ……!」

手を伸ばした時にはもうすでに遅かった。

バシャ―という水音と一緒に黒い液体がみるみるうちに広がっていく。

あたしと紗江は驚きのあまりもう何もしゃべれなくて、ただ口をあんぐり開けたまま立っていた。

状況をのみ込むのにかかった時間は約二秒。

慌てて墨のボトルをおこしたが、残った墨はすでに半分以下になっていた。