背に吹き抜けるは君の風


「だーからー、ちゃんとおんなじ袋ん中にしまっとけって、アレほど言ったのに」

「すすんません…」

「横着すぎんのよあんたー」

「あ!あったコレコレ……!」

そう喜んだ瞬間、

バリーンッ

びっくりする暇もなくほぼ反射的に、音がしたあたしの左側を振り返る。

(きれい…)

素直にそう思った。

西日にガラスの破片が反射してキラキラ光っていた。

「危ないっ!」

聞きなれない声がしたと思ったら、あたしは温かいだれかの胸の中。

大事な物のようにすっぽり抱きかかえられている。

何が何だかわからない状況で、あたしの心臓は鼓動が激しすぎる。

「大丈夫か?」

あたしを抱きしめていた腕を離し、その代わりに頭をポンポンと撫でた。

(なんか、安心する…)

そこであたしは、その人の顔を初めて見た。

くせのない前髪に午後の光がからみついて、瞳がきらきら輝いて見える。

(こいつの顔もきれいだな…)

「俺、怪しいモンじゃないから。」

そいつは、くしゃっと笑う。

どことなく華やかな笑い方で、今日見たものの中で一番きれいだった。

そいつの声と息が耳の中をクルクルまわって、まるで春の風みたいにくすぐったい。

(いやいや、まるごと全部怪しいですから…)

喋ろうとしても口がパクパクするだけで、声が出ない。