「ちょ、ちょっと待って!!」

手を伸ばして、愛の彼氏のバッグを右手で掴んだ。

愛の彼氏はびっくりしたように振り返る。

「美、南…?」

「ねぇ、さっき、何の本買ってたの?」

膝に手をのせて、ハァハァ肩で息をしながら言う。

「へ?」

「だぁかぁら、古本屋でなんか買ってたでしょ。その本が何の本かって訊いてんだよ。」

そう言った瞬間、愛の彼氏は一瞬驚いたような表情を見せた。

「ドイツの医学書だけど…俺、将来、医者になりたいんだよね、だから」

「…偉っ!!てか、ドイツ語読めるんですか!?」

単純に、すごいな、偉いなと思った。

(将来、将来か…まぁあたしは今を生きるタイプだからさ…)

ははっと心の中で自分のことを鼻で笑った。

そのあと、自分が取り残されている感覚だけが残った。

「ていうか、絶対だれにも言うなよっ」

「なんで?」

「なんか恥ずかしいじゃん!!特に勉強ができる訳でもないのに!!」

と言って、顔を両手で覆い隠した、愛の彼氏の耳は、とてつもなく赤かった。

「顔、赤いよ?」

「バーカ。夕日のせいだっつーの。」

顔を覆ってた手をとって、拗ねたように笑う。

生ぬるい風が、頬をなでる。

髪が後ろに流された。

なんだかとても心地よい。

いつの間にか、雨は、止んでいた。