背に吹き抜けるは君の風


あたしは、交差点を左に曲がって、いつもお世話になっている古本屋に向かった。

少し歩くと見えてきた青い看板。

明らかに駐車に不便な駐車場は、珍しく1台車が止まっていた。

ちなみに車は全部で10台駐車できる。

漫画のポスターが貼られたガラスの自動ドアを通り、あたしは店内に入った。

ズラリと縦に整列した本棚に、たくさんの小説や漫画本が詰まっている。

(やっぱり雨の日は安くなった漫画本を買って読むのが一番の楽しみでしょ。)

あたしはうきうきしながら奥の少年漫画コーナーへ向かった。

その時だった。

愛の彼氏らしき人を見つけたのは。

「ん?」

3歩進んだがすぐに3歩戻った。

主に翻訳書が置かれているコーナーに、男子高校生が一人真剣に何かを読んでいる。

間違いなくあの制服はあたしが通っている高校と同じものだ。

それにあの漆黒の髪、モデルのような体型、何よりあの綺麗な横顔。

どこからどう見てもその男子高校生は愛の彼氏だった。


(あんなに真剣になって、一体何を読んでいるのだろう。)

とりあえず、声をかけよう、そう思った途端、愛の彼氏はパッと顔をあげて、読んでいた本を小走りでレジに持っていってしまった。

「え」

(そんな、今声をかけようとしたところだったのに…)

けれど、愛の彼氏はキリッとした表情で、とても話しかけられる雰囲気ではなかった。

愛の彼氏は大事そうに本を抱えてすぐに店から出て行ってしまった。

そんなに早くあの本が読みたかったのだろうか。

不思議に思ったあたしは、古本屋をすぐに出て、愛の彼氏のあとを追いかけた。