「大丈夫?美南。」

「うぅ……。すんません……」

「前髪まで濡れてるよ」

『これじゃあバイトどころじゃないな』とつぶやいてから愛の彼氏はエナメルバッグからタオルを取り出してあたしの頭をわしわし拭いてくれた。

このタオル使ってないからと言って。

確かにタオルからは清潔な香りがした。

そこらへんの男子とはやっぱり違う。

ふとなんとなく上を見上げるとタオルのタグに黒マーカーで“こうた”と書かれていた。

その瞬間ぶっと思い切り吹き出してしまった。

「アハッ!アハハハ、名前書いてんだ私物に」

「あーコレ、兄貴が無理矢理書いて……」

「ふははっ」

まさしく男子って感じの走り書きのような感じなのだ。

最初、悠人の字を見たときは本当にびっくりした。

左利きというのも原因かもしれないけれど、字の下手さと容姿が全然噛み合っていない。

(……さすが)

ブランドもののおしゃれなタオルなのにコレで一気にダメにしている。

あたしはしばらく笑ってから、『タオルありがとう』とお礼を言った。

愛の彼氏はムスッとした表情をしていた。

「俺だってやだったよ。こんなん……」

「でも洸太って名前、綺麗だね。どんなに下手な字で書いても綺麗だよ」

「……そうかな……?別に普通だと思うけど」

愛の彼氏はタオルの字をまじまじと見つめながら言った。

こんなに綺麗な名前なのに気付いてないのはもったいない。

「じゃあさ、今度書いてよ、俺の名前」

「お。いいよー、まかせてっ」