背に吹き抜けるは君の風


「あーあれは全然いいっすよもう。平気なんで本当に。それに失敗作だったし。あはー」

「や、でも……」

愛の彼氏はまだ申し訳なさそうにしていた。

あたしが気をつかって嘘をついてるとでも思っているのだろうか。

あたしはぼんやり考えながら雑巾を絞った。

黒くにごった水がしたたり落ちる。

目の前の窓からなんの変哲もない灰色の風景。

穏やかすぎる午後。

「あ、そうだ愛の彼氏、バイトは平気なの?そろそろ本気でやばいんじゃ……時間」

「うん。連絡したから平気なんだけど、今日他の人も遅れるって言ってたから大丈夫かなーって……」

「え!やばいじゃんかそれ。早く行ってあげなよ愛の彼氏。……って、ぎゃ!」

あたしは思わず驚いて蛇口を逆にひねってしまった。

その瞬間、滝のように水が吹き出た。

慌ててさっきとは逆の方向にひねったけどもう手遅れ。

愛の彼氏は地味に吹き出していた。

(いっそのこと思い切り笑い飛ばしてくれれば良いのに……)