背に吹き抜けるは君の風


「じゃーよろしくな洸太ぁ。ハッハー災難だったなー、それにしても。はい、じゃあ今日は終わりー解散!」

先生の足音と笑い声が部室から消えて少し経った後、愛の彼氏は地味に雑巾とバケツを取り出して廊下に出た。

(なんて切ない後姿だろう……)

哀れみの目で皆が愛の彼氏を見つめていた。

(あ、愛の彼氏よ……。)

ーーー

あたしはその後すぐに自分の習字道具を片付けてから愛の彼氏のもとへ向かった。

紗江は「みたいドラマの再放送がある」って言ってさっさと帰ってしまった。

薄情者にもほとがある。

1年生は、全員残って愛の彼氏のお手伝いをしてくれた。

なんとも偉い子ばっりだ。

どこかの2年生とは大違い。

「愛の彼氏、お疲れーっす」

「……すごい笑顔だな……」

「いやいやいや。だって、あまりにも愛の彼氏と雑巾が似合っていたから……ぶ」

「笑うなって」

愛の彼氏は「部活でいっつも雑巾で道場拭いてるからかな……」と、ちょっとふてくされたように怒った。

でも、洗い場で一人雑巾を洗っている愛の彼氏は、あまりにも面白い。

他に誰もいない廊下に虚しくジャブジャブという水音が響いている。

「わ、冷たっ」

あたしも雑巾を水で濡らそうとしたけど、水の冷たさにびっくりして思わず指を引っ込めてしまった。

なのに愛の彼氏は至って平然と雑巾を洗っていた。

その様子に驚いていると、突然愛の彼氏が弱々しい声を出した。

「美南、あの、ごめん本当……。習字破いちゃって……」