背に吹き抜けるは君の風


そして、くるりと踵を返して書道室から去ろうとした。

その瞬間、ビリッという嫌な音がした。

ピタッと固まる部員一同、朝比奈先生、愛の彼氏。

視線は愛の彼氏の足元に集中した。

「……あ」

破けたのは、紗江のせいではねがおかしくなった失敗作。

そんなの別に破けても大丈夫だよ、と言おうとしたけれど、愛の彼氏の顔は真っ青だった。

「え、あの愛のかれ……」

「あーあ、やっちゃったな洸太。これ、綾代の最高傑作だったのによぉ」

(え……!ななな何を言ってるの、この人は……?)

あましは目を見開いて朝比奈先生のほうを振り返った。

……悪魔の羽が見えた。

「お詫びに片付け手伝えよ、洸太」

「あの、バイ……」

「まさかバイトがあるなんて言わないよなあー?じゃあ、あそこの畳についてる墨の染み落としよろしくー」

「…………」

(あれ前に朝比奈先生がらこぼした墨の染みなのに…。)

ものすごく愛の彼氏が不憫に思えた。

哀れとしか言いようがない。

あの先生に捕まった時点でもう逃げられないことは決定済みのようなものだ。

愛の彼氏は何も言い返せなくて、ただ固まっていた。