背に吹き抜けるは君の風


「……俺からすればみんな上手いです」

「あー。お前、字だけは天才的にアレだよな。頭はいいのにな」

「……」

愛の彼氏は苦笑いをする。

(字、下手なんだな…)

いつの間にか書道室にいる部員全員が黙り込んで、愛の彼氏と朝比奈先生を見つめていた。

四方八方から感嘆の声が次々とあがる。

静かで、凛としていて、初めて見たときと同じさわやかな感じのするまなざし。

悠人の瞳は、人間がまだ踏み込んだことのない山奥の湖みたいな、あるいは海の底みたいな、セルリアン・ブルーですごくあざやか。

でも愛の彼氏とは、ぜんぜんちがう。

色だけじゃなくて、質がちがう気がする。

悠人の目は、冷たくて硬くて、まるで刃物みたいに心に切り込んでくる。

愛の彼氏のは、どうしてかわからないけど暖かい感じがして、広がりがあって、見ていると包み込まれるような気分になる。

北極と南極が、まるで反対方向にあるのにおなじように寒いのといっしょで、二人の目は両極端のあざやかさなんだ。

これで本当に見えるのかなぁって、不思議になるくらい、きれいな目。

人形の目みたいで、見えてるってことが信じられない。

「……じゃあ俺、そろそろ帰ります……」

愛の彼氏は視線に耐え切れなくなったのか、小さい声でつぶやいた。