振り向くとそこにはニヤニヤした表情の、紗江がいた。
根元近くまで真っ黒な筆から今にも墨汁がたれそうだ。
「いーなーいーなミナー。また、時雨先生と話せて」
「いやいやいや……。どこの何がいいんですか……てかあなた彼氏さんがいらっしゃるでしょう」
「えーだって普通にかっこいいじゃん時雨先生。後輩からも人気だよー。それに先生目当てで入部した子も多いし」
紗江の話を適当に流しながらあたしは半紙を置きなおした。
位置とか結構こだわるほうなので、意外とこうした作業が面倒くさい。
「よし書くぞ」と意気込んだ瞬間、紗江がまた話し出した。
(……空気を読もうぜ……。)
「ミナと先生って仲良いよねー。なんか時雨先生もミナには特別優しいしっ」
「あの……。どこをどう見たらあれが優しいと……?」
「だって髪なでられたりとかミナ以外された人いないよ!」
「あれはなでるというより、なでつぶす感じでは……」
紗江のマシンガントークに押されながらも頑張って字を書き続けた。
だけど、それはそれはもうひどい字だった。
はねのところとかもうやばすぎる。
紗江も横から顔を出してその字を見てぷっと吹き出していた。
(こ、こんのやろう!)

