背に吹き抜けるは君の風


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「綾代、テメー、マジしばくぞ。ああ?」

「すすすいません……。朝比奈先生……」

「雑念を払え雑念を。じゃないとお前の筆の毛逆立てんぞ」

「それだけは勘弁を……!」

ベシベシ頭を乾いた大筆で叩かれながらあたしは謝った。

書道室に響く部員のくすくすという笑い声。

怒られたはずみで、思わず半紙に墨をたらしてしまった。

(……せっかく上手く書けてたのに……。)

「はい……書き直しだ、書き直し。書け。そして書け」

「はい……」

書道部顧問・朝比奈 時雨(あさひなしぐれ)。独身。

こんなドSな人をはたして教師と呼べるのだろうか。

整った顔にホストみたいな髪型、アンド眼鏡。

黒髪と眼鏡でせめて教師っぽくしようとしてるみたいだけど、絶対カバーしきれてない。

大体この畳の部屋とミスマッチにも程がある。

壁じゅうに飾られている作品がかすんで見えるくらいだ。

「綾代ー。さっき、俺はなんて言ったっけなあー?」

「ざ、雑念を払うっす」

「分かってんじゃねぇか。偉いよ偉いよ。だって部長だもんなー?」

「きょ、恐縮っす」

朝比奈先生は低音ボイスでしゃべり、あたしの頭をぐしゃぐしゃにして、他の部員の字を見に行った。

思わず安堵のため息を漏らしたその時、肩を誰かに小突かれた。