背に吹き抜けるは君の風


「あいつは、愛のなんなんだっ?」

悠人の弟の後ろ姿が完全に見えなくなってから、やけにイライラしながら愛に問いかける。

はあ、と愛はため息に似たものをして、ひと呼吸置いた。

「彼氏。」

「彼氏!?」

自分でも恥ずかしくなるような、素っ頓狂な声を上げてしまった。

愛は変わらない笑顔で続ける。

「こないださ、バスケ部が終わるまで待ってたの。キャプテンを驚かせようとしてね。そしたらぁなんか、ファン?みたいな人たちから、すっごい睨まれたから、帰ることにしたの。で、駅前に着いたら、ほら、クラスに剣道部の矢野(やの)君いるでしょ?」

愛の話によると、その矢野君に、いまから焼き肉行くから、一緒に行こうって誘われたらしい。

暇だったから行くと、そこに安藤 洸太がいて、なんかカワイかったので告ったらあっさりOKもらって。

「いまに至るってわけ。」

なぜか隣の紗江がしきりに頭を動かして頷いている。

あたしは、どこか釈然としないわだかまりが残ってたが、すぐに消した。

(気のせいでしょうねー……)

あたしの中で安藤 洸太という人は、悠人の弟から愛の彼氏に変わった。