その瞬間、また、何かを取り損ねたような気分になった。
自分の胸の奥深いところに、何か潜んでいるような、感覚。
あたしは、どうしてもそれが取り出せない。
「せ、先生」
「ん?どうした、綾代」
授業が終わりみんなが教室に戻りだした時、あたしは慌てて鈴木先生の元へ向かった。
そして、うずうずしている衝動を絞り出すように声を出した。
「あの、さっきの『月光』なんですけど、CD貸してもらえませんか……」
そうお願いすると、鈴木先生は太い眉を少し真ん中に寄せた。
「え、ああ、かまわないけど……」
「絶対傷つけませんっ」
「違うんだ。そういう意味じゃなく、綾代、前にCD持ってるようなことを言ってなかったか……?」
「……?言ってません」
「そうか。じゃあ、違う生徒だったかもな。休み時間に気まぐれで月光をかけていたとき、『このCD、大好きなんです』って、嬉しそうに言ってた子がいた気がしたんだけどなあ。いやあ、最近物忘れが多くて困るね」
鈴木先生は、白髪頭をかいておどけて笑って見せた。

