[side 胡桃(くるみ)]

「胡桃~。朝よ。起きなさ~い」

 リビングから響く、お母さんの声が私の耳を叩く。

 私、吉井胡桃は、お母さんの声で、重く閉ざされた瞼をゆっくりと開けた。

 私は、その小柄な体でトタトタと階段を駆け下りていく。

「おはよぉ。お母さん」

 まだ少し寝ぼけた様な感じで、私は、朝食の用意をしているお母さんに挨拶をした。

「おはよう。・・・まったく。胡桃はもぅ中2なんだから、自分で起きれるようになりなさい」

「はぁーい。ふわぁ~」

 ピンポーン

『すいませーん。伊藤ですけど、胡桃もう起きてますか』

 いつもと同じ会話をしている途中に、家の呼び鈴がリビング内に鳴り響く。

「ほら、もう直季くん来ちゃったじゃないの! 早く準備しなさい!」

「もぉ~。直季が早起きなだけじゃん」

「アンタがお寝坊なだけ! いいからさっさと準備する!」

「はぁ~い」

「直季くんごめんね~。すぐに胡桃行かせるから」

『はい』
 

 お母さんに説教をくらいながら、私は急いで制服に着替え、食パンを食べて鞄を持った。

「行ってきまーすっ」

「いってらっしゃい。明日はちゃんと起きるのよ?」

「うんっ」

 急いで玄関のドアをあけると、そこに私の彼氏が立っていた。

 少しクセのつき、茶色がかった髪。

 見惚れさせるような、美しい瞳。

 整った、綺麗な顔立ち。

 私の幼馴染で、私の彼氏。

 伊藤直季。