オレにはサックスがあった。



それがどんなときでも

絶大な支えになっていた。



サックスと出会うまでのオレは、

何にもなかった。



どちらかと言えば、

オレは恵まれている。



同じ境遇のあの子よりもずっと。






「ったく、んなこと

メールで言って済ますなよ」



わざわざ面と向かって言われても

反応に困るんだけどさ。




放課後、

いつもの旧校舎の4階で、

サックス片手に窓際の机に座って

窓の外に目を向けて

ぼんやりしてた。



『あの人、転院するんだって』



母親からの短いメール。

それでも悟るには十分だった。



もう、ヤバいんだな、親父。



って言おうと口を開いたけど

声に出せなかった。