葬儀のあと、

喪服のままで

オープン前のバー“south”に

行った。



バーのマスターに、

借りていたテナーサックスを

返すために。



店内は準備中で、

ちょうど席を外していた

マスターが戻るのを

カウンターで

待たせてもらうことになった。



ラムが、

「今日は暑かったでしょう」と

特別にカクテルを作って

出してくれた。



ココ・オコっていう、

ノンアルコールの

フローズンカクテルだ。


白いシャーベットが

シャリっと冷たく、

ココナッツの風味で

ほんのり甘い。




マスターが現れた。

喪に服したいで立ちだ。


親父とマスターは旧知の中で、

葬儀にも参列してくれていた。



オレはカウンターの

イスから立ち上がって

一礼した。



オレの足元に置かれた

サックスケースを見て、

マスターは、

「おや?」という顔をした。



「ああ、これ返しにきたんすよ」

と言ったら、



「テナーサックス、

気に入らなかったのかい?」


マスターは戸惑った様子で

オレとテナーサックスを

交互に見つめた。