オレの肩や頭を

かするほど近くを舞う。



親父がオレの前を通る。



胸中に込み上げてくるものが

あった。

けど吹き続けた。




ノビが足りない。

まだまだだ。


仕方ないだろ。

ホントはもっと

上手くなってから

聴かせてやるつもり

だったんだから。


待ちきれなかった

親父のせいだ。




親父が離れていく。




アゲハチョウは

いつの間にか

視界から消えていた。





なあ、親父。


言うほど

ミジメな最期でも

なかったじゃん。





すっと晴れた気持ちで

吹き上げる。


“親父”の“テナー”を。





……−ああ、


今、今までで一番、


良い音が出せた気がした。