あー、やっぱバレたか。


「…ごめん」


気まずい感じで

首をすくめ頭をかいた。



母さんは、

オレに背を向け、


「まぁ、いいわ。

構ってる暇なんてないの。

さあ、出棺よ」


不機嫌な声で言うと、

スタスタ離れて行った。




母さんは、

佐野椎南の存在を

永劫許すことはないと思う。


焼香を許した理由に、

深い意味は

ないかもしれないけど。

その真意を

今は聞き出すのは

無理だろうし。



だけど、

現実として焼香を許した。


それだけで今は十分だ。



オレは初めて

母さんを見直した。





葬儀場の門の横に

参列者たちが並んで立っている。

火葬場はすぐ近くにある。



オレはテナーサックスを構えた。



遺影を抱えた母さん。

そして霊柩車。



親父を見送るには

これしかない。



親父に

オレのテナーサックスを

聴かせるのは最初で最後。




その時、

どこからともなく現れた

一匹のアゲハチョウが

サックスを吹くオレの周囲で

ヒラヒラと舞った。