ラプソディ・イン・×××

会いに行けない。

どうしても。



スミレは黙って

オレの肩を抱いた。


オレはスミレの首に

おでこを押し当てて

目をつぶった。


「…もしかしたら、

見たくないのかもしれない。

弱った親父の姿を。


見返してやりたいって、

ずっと思ってた親父が、

弱ってく姿を」




ホスピスに転院する前、

一般病棟での親父の病室は、

いつもひっそりとしていた。


母さんは、

きっと看取りには行かない。


親父の両親はもういない。


兄弟とも、

経営の関係で上手くいってない。



スミレの両腕が

オレを抱きしめて、

優しく頬を撫でた。



「ミジメだろ?

見たくない。

親父が、たった一人で、

死んでいく姿を」



思ってもいないほど、

するすると言葉が出てきて

オレ自身が驚いていた。



スミレの細い身体を

強く抱きしめた。



しばらく無言のまま

抱き合ったオレらの身体は

ゆっくりと床に倒れ込んだ。



「なぁ、香水、何使ってんの?」


肌に顔を埋めたまま聞いた。



「…ブルームーン。

月とバラをイメージして

作られた香水なの」



天井を仰いでスミレは答えた。