「一つ、いっていいかな?」
「はい」
「貴女は普通の人より、悲しい人生を送ってきたかもしれない。今も辛いかもしれない。だけど彼の時間奪っていて、嫌なんて言っていい、立場じゃないでしょ?」
わかってる。その通り。我が儘を言える立場ではない。だから一人で、やろうとしてる。だけどそれが、余計に邪魔になってる。
「…ごめんね。意地悪しすぎちゃった」ガチャ「あ、帰ってきたわね」
カチャ「ごめん、智美。ありがとう」
彼がリビングに入ってきた音に、少し体がこわばった。これが、いけないのに。
「ううん。あたしこそごめん。姫ちゃん、ちょっと、いや、かなり?苛めちゃった」
「え?」
「まあ、あたし帰るわ。じゃあね」
「え?ああ、うん」
「…ごめんなさい」
あたしも立ち上がって、頭を下げた。
「気にしないで」
智美さんが、家を出ていく音が聞こえるまで、頭を下げ続けた。
