「行ってきます」
7時に家を出る。゙彼゙が起きる前に家をでる。
会いたくない訳じゃない。寧ろ感謝してるくらい。だからこそ余計に、迷惑も負担も、かけたくない。
「藍沢…」
誰もいない教室で、本を読んでいると、降ってきた聞き慣れた声。
「おはよう。館川くん」
案の定そこには、唯一、まともに話せる男の子。館川惟都くんがいた。本の趣味の系統が一緒で、好きな作者が一緒で、仲良くなった。
「本、ありがとう。面白かった」
「そう?よかった…」
貸していた本を受けとる。
「あと、これ。言ってた本」
「えっ?買えたの?」
「ネットでだけど。俺、読んだから」
「貸してくれるの?」
「ああ」
「ありがとう」
大好きな作者の本を、緩む頬を隠さないで、受け取った。
館川くんは眼鏡の奥の瞳を、一瞬だけ少し細めた。その行動に、胸の奥が不規則に動く。
「此処で読んでい?」
前の空いてる席を、指差したから頷いた。お互い無言で本を読む。
この沈黙は嫌いじゃない。安心する。
暫くしてクラスメイトが、やって来た。これがいつもの、解散の合図。
