「もう、行くのか?」
「はい」
寝起きの声はいつもより、低くていつもより、恐怖は高鳴る。
何が恐怖かって、彼の口から出てくるかもしれない、出ていけ、の言葉が怖い。
「…そう。行ってらっしゃい」
再びぴたりと、息がとまった。
゙いってらっしゃい゙。久しぶりの言葉。返事に詰まった。少し嬉しかった。゙帰ってきてもいい゙と、言われてるみたいで…。
「…知那?」
「あ、すみません」
「大丈夫?」
「はい」
「…そう?じゃあ、いってらっしゃい。気を付けて」
「…はい。ありがとうございます」
彼を見ないで言いきると、ローファーをはいて、家を出た。
きっと私の顔は複雑に歪んでる。恥ずかしいけど、切なくて、嬉しくて、悲しい。
あと何回、あの家に帰れるのだろう…。
