「本当にないのか?思い残してること。」


天使は私から目線を少しずらして、呟くように言った。

なぜか悲しみが含まれたような語調に私の胸は無意識にズキリと鳴った。


「……ないわよ。」


口を真一文字に結んぶ天使。

なによ。そんな顔されたって私はあの世へ行くんだから。


「さあ、もうこの話は終わり。早く連れて行ってよ。」


「……。」


長くも短くも感じられた沈黙を破ったのは天使だった。


「わかった。ついて来い。」


仏頂面でそう言うと、翼をバサリと広げて向こうの霞を掻き分けるように向こうへ消えて行こうとした。


「待ってよ!」


見失うまいと、私は慣れない動きでありながらも天使の後を追った。