新撰組(仮) 二


何をいっているんだこの人は。
と言うか、自己紹介はどうした自己紹介。

人の名前を聞くときは自分からって習わなかったのか。


などなど、無礼千万なことを考えている最中でも男は手を離そうとしない。

いまだ流し目を送ってくる。


・・・いい加減にしてほしい。


いやいやそれよりもだ。こっちのほうがそれよりもだバカヤロー。


巫女の名前は世間には公表しないのだ。
意図的に、公表しないことになっている。
つまりいくら重臣であろうと巫女の名前をきくことは天皇に対する背信行為と同じである。


…若いから家督を継いだばかりのボンボンなのか?この人。
だから、そのことも知らないと?
ほほー、お偉いさんはいいねえ、世間しらずでも生きていけて。



…いや、ちょっと待てよ。
私の座っている席はおじ様の向かい側で、しかも天皇のおわす上座に一番近い。
そんな私の右隣りに座っているということはだ。
もしかして…………


「東宮。」

「んー?」


じとーっと、男をみる嫌悪の目を外仕様の微笑みで覆い隠していれば誰かが『東宮』といった。


そして、目の前のこの男が返事をした。

で、こそこそと呼んだ男が目の前の男に耳打ちをしている。


・・・東宮?

東宮って、東宮?

あの、次の天皇様?
天皇の息子?

・・・・・・やっぱりーーーーー?!?!?!?!?!


(や っ て し ま っ た )



いやーーー!!!
もしかして、もしかしちゃったよー!!
後悔の念が次々と押し寄せてくるがもう後戻りはできない。


目の前のこの男はとてもとても高貴な方なのだ。
普段だったら、私など視界に入らないくらい。

どうしよう…!!
東宮の顔知らないとか、やってしまったよ!!
自己紹介が遅れてしまったよとか、どーでもいいよ!!
東宮に自己紹介させる気だったとか、言えねー!!

散々、心のなかでは悪態をつきまくっていたが、それが誰かにばれていたらどうしよう。