いつの間にか涙が出ていたらしく、目の前ではぎょっとした顔で山崎さんがおどおどしていた。


「ええっと、ごめんね、今、僕、傷つくようなこと言った?!
 言ったんだね、ええと、ごめんね?!」



ふるふるとくびを横にふって否定を示す。



「わ、私…」



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土方さんのことが好きだと、山崎さんに伝えた。



そして、土方さんには恋仲の人がいて、この気持ちを伝える前に失恋してしまったのだと。


わんわん泣く私に、山崎さんは微妙な顔をしていた。


山崎さんは、土方さんに恋仲がいるなんてありえないよと最後まで慰めてくれたけど、沖田さんから渡された発句集には確かに、相手の人を思っての句が綴られていた。


それが恋仲でなくてなんというというのか。


考えるのもつらくなって、私は疲れて寝てしまうまで泣き続けた。
失恋の痛みを一緒に流してくれるようにと願いながら。





「あれ?」


誰かの視線を感じて振り向くと、そこには山崎くんがいた



「どうかした?」


「…沖田さん、やらかしましたね」


「何が?」


要領を得ない山崎君の発言にこてんと首を傾げた。

おかしいなあ、いつもの山崎君は冷静で簡潔なのに。


んー、と悩んでると山崎君は、はぁと大きなため息をついてきれいに整えられた髪をガシガシと掻いた


「奏楽さんですよ。土方さんの発句集、渡しませんでした?」


「うん、渡したよ?」


「…あなたが親切で奏楽さんに渡したんでしょうけど、奏楽さん、完っ璧に勘違いしてましたよ。」


「え?」


そこで山崎君に説明されて、どんなに否定しても受け入れてもらえなくて今もまだ勘違いしたままだと教えられた。


「じゃ、確かに伝えましたから。」


「え?うん。
 …ねぇ、山崎君」


「はい?」


片手をあげて去ろうとした山崎君を呼び止めて、振り向いた彼に、すっと細めた目を向けた。


「どうして教えてくれたの?」


「…勘違いしないでくださいね。俺は、ただ、土方さんには幸せになってほしいとおもったからですよ。」


それじゃ、今度こそ、失礼します。

後ろを振り返って歩き出せば、再度沖田さんに呼び止められることはなかった。


「っ、こっわ…」


さっきの沖田さんの顔を思い出して、ぶるっと身震いした。

「あの人も、土方さんを思ってのことなんだろうけどなあ…」

なんでそう上手くいかないんだろうなぁ…

そう思いながら両腕をさするようにして歩いた。