新撰組(仮) 二

私はそのまま廊下を進んだ。

ぼーっとしながら歩いているとふっと目の前に影ができて、その直後に誰かにぶつかってしまった。



「うわ、すみません…あ、山崎さん」



「これはこれは奏楽さん!
 お久しぶりですね」



目の前で大きなたれ目をこれでもかというくらい下げて心配そうに見つめてくるこの人は監察の山崎烝さん。
監察とはいっても天井裏に忍び込んだりはせず、密偵として攘夷浪士に潜入し情報を得たりする危険な仕事だ。


真選組の幹部はみんな美形ぞろいで山崎さんも例にもれず美形ではあるのだが、性格に難のある土方さんたちに比べて、かわいらしい顔つきと明るい笑顔で、唯一の癒し要員である。



「大丈夫ですか?
 すみません、僕も急いでいたもので…
 けがはなかったですか?」



あぁ…
本当に山崎さんいい人…


土方さんの恋仲発覚事件と、斎藤さんと千春の恋仲疑惑で置いてけぼりをくらって寂しく感じてささくれだった私の心に山崎さんの笑顔は優しくてとても眩しく感じてしまった。


それが故に、泣きたくなったのだ。
普段は絶対にこれくらいでなくはずなんてないのに。



「うぐっ…」


「えっ?!
 奏楽さん?!」



「やばざぎざんんん~~~‼」




どうやら、想像以上に私の心は弱っていたようです。