「何してんの」


 感情の起伏のないつるりとした声が真上から落ちてきた。
 ルルゥは億劫そうに閉じていた目を開けて彼を上からのぞき込む不埒者の尊顔を拝見した。
 赤銅の髪は緩やかに波打ち、ルルゥの白い頬に垂れるほど。日に焼けた健康的な肌には傷一つない。茶色の切れ長の眼孔がじっとルルゥを映していた。

「見てわかんない?」

 モスグリーンの軍服の襟と胸元を飾る勲等でかろうじてルルゥより地位の高い軍人だとわかり、だからかルルゥはいっそう険悪な――どこか機嫌を損ねた低い声で言った。
 色を失ったような金髪が生ぬるい風に揺れる。
 赤い髪の男と同じ色のはずの軍服は所々に乾いて黒ずんだ血が点々とついていた。右わき腹はまだ血が乾いていないのか軍服はじっとりと湿っているようだった。ぐっしょりとルルゥの横たわる地面だけが濡れている。
 ルルゥの白磁の肌は血の気を失ってより白い。

「あぁ」

 花が綻ぶように男は緩やかに微笑んでその大きな手をルルゥの右わき腹に触れた。突然患部に触れられ走る痛みに抗議しようとするルルゥの口腔を何かが塞ぐ。
 チョコレートブラウンの瞳がやけに大きく見えて―――。

(え)