なすべきことをやり遂げぬうちは死ぬことは自分には許されない。だから、死の妖精との取引はそのとき必要だった。




 大魔法使いルゥリ・ラトゥーサは今、ひどい後悔のうちにいた。


 気まぐれに拾った子供はいつの間にか自分の背丈を超え、年齢も追いつこうとしている。ルゥリは二十八の時に自分の時を魔法の代償に差し出したので、世界がどれだけ廻ろうとも二十八歳なのだ。
 成長していく子供を見ているうちにルゥリの体のうちにもやもやとした焦燥が巣喰い始めた。




 蝋燭に明かりを灯すことしか出来ない子供はそれを日課とし、日が落ちると館をくまなく火をつけてまわる。はじめ暗闇をおそれていたのは子供の方だったので子供をあやすためにルゥリは毎日明かりを絶やさなかったのだ。しかし今はルゥリの方が闇を怖がった。ルゥリが安心して館全体を歩き回れるようにと子供は今日もぱたぱたと足音を響かせている。


「ルゥリ」

 不遜な声が頭に響く。

「わらわと離れたいのかえ」

 拗ねるようなニュアンスにルゥリは喉を鳴らす。

「何故?」

 目の前をさまようようにふわふわと浮かぶ漆黒の蝶。手を差し伸べると蝶はルゥリの長い指先にとまって羽を休める。