「先生」

 本に読まれてるような気がするくらいの量の古代図書に埋もれたままの先生が僕に視線だけをくれる。

「来月、なんだかわかります?」

「あぁ?」

 時間なんて死を奪われて肉体の時間もある魔法を扱う代償で取り上げられてる先生には激しく意味のない代物なんだろうけど、一般的な人間として生きている僕にとっては支配者だ。先生は一抱えもあるような巨大な禁書から顔を上げてまじまじと僕を眺めた。

「…何が欲しいんだ」

「え」

「てめぇの誕生日だろ」

 どんどんでかくなりやがって。
 毒づく先生に僕は嬉しくなってしまった。

「だから不老にしてくださいよ」

「そりゃ禁魔法だっつーの」

「先生なら出来るじゃないですか」

「知るか」

「…だって来月二十八になるんですよ。先生より老けたくないです」

「―――」

 先生はだんまりを決め込んだらしくむっつりと不機嫌になって僕はこれ以上先生の機嫌を損ねないように部屋を後にした。

 本当は、完成したら先生が死んでしまうだろうその研究をやめてくださいといいたかったのだけど、僕にはどうしても言えなかったのだ。




 偉大な大魔法使いルゥリ・ラトゥーサ。
 彼は死を取り戻すために神を殺そうとしている。