“笑ってほしい”
誰かに対してそんな感情を抱いたのは初めてだった。
浅く心地よいまどろみ。
そこから俺を引きずりだしたのは、さらに心地よい光だった。
誰が誰を好きとか。
そんなこと俺にはどうでもよくて。
関係ないと思っていた。
ああ。
もしかしたら“好き”って気持ち自体、よく判ってなかったのかも。
愛するから、手放そう。
奏が望む場所。
そこが奏の在るべき場所。
この腕の中に戻って来ないなら、それは最初から俺のものではなかったのだろう。
これは……勘?
だとしたら“この勘だけは外れてほしい”なんて。
醜い雑念は振り払おう。
光と奏。
どっちが本当に欲しかったかなんてもう、どうでもいい。
光も奏も、どっちもお前だから。
お前が笑う。
それだけで俺はきっと幸せ。
たぶんこれも……勘?
お前が誰でも。
お前が誰を好いていようと、お前が俺の特別なのは変わりない。
俺は俺の微衷を尽くそう。
顔を上げる。
見上げた冬空は、青く晴れ渡っていた。
明日は雨かも?
End.