だから、君がただ真っ直ぐな目をして“紅月光”とだけ名乗った時、少し驚いたんだ。


君の歌を聴いた時にはもっと驚いた。

君の声はきちんと僕の胸に届いたから。



大した実力もなく踏み入れてしまった世界で、親族の栄光に縋るしか生きる道を見出せなくなる。

僕は君をそんなふうに誤解していたんだ。



僕の理性を壊してしまう、危険な存在。

頭ではそう認識しているのに、心はどうしようもなく惹かれていた。



君と僕の立場は少し似ている。

君も僕も、親が敷いたレールの上を歩むことを期待された人間。


だけど生き方はまるで違った。

絡みつく運命を呪う僕と違って、君はその期待に完全に従うのではなく、かといって背くでもない、自分なりの生き方を貫いていた。


そんな生き方があるなんて、思いもしなかったから。

それが判った時、君に一番近い存在でありたいと思うようになった。


“君の隣なら自然に笑えるかもしれない”なんて、浅く夢見ながら。