物にぶつかって音がしてしまった。
(だっ、誰!?)
女の声は、さっきの甘い声が
嘘のような驚いた声だった。
「ちょっ、覗きとか趣味悪いでしょ!!
早く行ってよ!!」
女は、あたしを見つけて睨み付けた。
最低男は無言で、あたしの方を
向いた。
最低男の表情は、何を考えているのか
全く分からない表情だった。
段々と息が詰まるような感覚が襲って
あたしは、無意識に走り出して玄関を出た。
「……………ハァハァ……」
あたしは、何も考えずに
ただ……夢中で走り続けた。
猛スピードで走っていた足は段々と
遅くなってピタリと止まった。
「……ハァハァ……ハァ……」
どれくらい走ったのかは分からないけど
息は、凄く荒くなっていて
マンションの物影はなかった。
きっと、遠くまで走って来たんだろう。
重い足を引きずるように歩いていると
近くに公園が見えた。
あたしは、ブランコに乗って
ボーッとしていた。
……………………あたし…………
何で直ぐに逃げなかったんだろう。
直ぐに、あそこから立ち去れば
あんな展開にはならなかったはず。
その時、あの時の光景を思い出した。

