そのあとすぐにステージに集まったdot.pointの面々は、各々軽い練習を始めた。

控えに居た2里はボーカルとドラム。
瑠威の控えに居た3人は、ギターとベースである。

個々の席の無いNotのライブハウスは、客が入っていないだけでいくらか肌寒く感じられた。

紫苑は、その空間の中央に脚を運ぶ。
ステージの方に身体を向けると、合わせすっか、と声を出すリーダーに従おうとするdot/pointが目に映る。

走り回れる程の余裕のあるステージは、照明で無造作に照らされていた。

リハーサル開始予定時間までは、まだ少し時間があるがそれぞれが今日のライブに気合を入れているのがわかる。

きっとdot.pointは、スタッフに好かれているのだろう。


「それじゃあ。時間なんで始めたいと思います!!まだ日も浅いですが、初ワンマン、頑張ります!!ご協力よろしくお願いします!!」


ボーカルがマイクでそう発すると、関係者の声で会場が埋まる。

少しして、一曲目から演奏を一た彼らに紫苑は微笑む。

結成当初から彼らのヘアメイクを担当していた紫苑は、今まで1回も欠かさずライブを見てきた。

成長したと言うかなんと言うか…
結成当初を振り返ってみると、各々の実力がとても上達していた。

メンバーと関係者の中で意見が活発に飛び交う中、紫苑は自分に居場所の無さを感じ背後にある壁に身をあずける。

バスドラムの重低音が体に響く。
ベースやドラムの重低音が好きな紫苑にとって、ライブの振動はとても心地の良いものであった。

実力バンドであるdot.pointのすっぴんメンバーを眺めつつ、その振動でリズムをとる。

曲があとわずかで終わるという時だった。
バスドラムの音が大きくなったのを感じると、音響と目が合う。

入口から共にここに入った新崎瑠威、であった。

すっぴんだとオーラがひとつも残らないメンバーとは違い、素でも十分整った童顔の無邪気な笑顔には、不思議と目が吸い寄せられた。

手招きをする瑠威の近くにきょとんとした表情で寄っていくと、彼は折りたたみの黒いパイプ椅子を自らの隣に広げる。

居場所に困っていたいたのを見破られたのだろうか、と思いつつも、瑠威に話しかけていいのか分からず黙って頭を下げ席に着く。
が、先に口を開いたのは瑠威であった。


「低音好きなの?」

「好き。なんで?」

「いや、バスドラに合わせてリズムとってたからさ。ちょっと大きくしてみたっ。」


うっすらと存在していた敬語はどこへ行ったのか。
敬語をあまり気にしない紫苑は、相手に言葉遣いを合わせるのだが、瑠威の急な言葉遣いには若干の不快を覚えた。


「てかなんで急にタメ口…」

「あー、ごめん、嫌?タメだし、だめかな?」

「…べつに、いっか。」