重たい鉄の扉を開けると、正面にある会場への入口が目に入った。
その部分だけポスターが貼られていないから、目立つのも当たり前なのだけれど。
元の壁はこんなに重たい色だったのね、の1言である。


「こっちですよーっ!」


少し遠めから聞こえた声に応え、瑠威のいる方向へ向かう。
こんなところに扉…というような目立たなさ。
会場入口とは裏腹に、目立たないようにポスターを境目なく貼ったのであろう。

有名バンドのポスターはひと目に付くからなのか遠ざけられ、まだ名もないインディーズバンドのポスターが多く貼られている。

180cmはあるであろう彼の後ろに続き、その扉の奥に進む。
一瞬目が眩むのは、ポスターではなくサインで埋めつくされた壁紙が白く、光を発しているからなのだろう。


「あたしここで仕事するの初めてなんですよー。
普段ファンとしてしかここ来たこと無いんで、結構楽しい。」


「実は俺も数ヶ月前にここ任されて。
それまでは、観る側としてでしかここ来てなくって。
スタッフさんに初めてここ連れてこられたときは、本当、今の紫苑さんみたいでしたよ。」


からかい口調で紫苑に応える彼は、ニカッと笑って再び前を向く。
それを見て顔をしかめる紫苑は、どうみても駄々をこねる子供にしか見えないのであった。


「何かさっきっからすっごい上からなのは気のせいなんですかね?」

「いや、きっと同い年くらいかなーって。背はちっちゃいですけど。いくつなんですか?」

「22ですけど。」

「ほら、やっぱり同い年。」


思いがけない言葉に、一瞬目を見開く。
自分を同い年だなんて初対面で見抜ける人はなかなか居なかったのだが。
最初から変わっているとは思っていたが、やはり間違いではなかったようだ。


「なんか・・変わってますよね。」

「そうですか?」

「そうですよ。」

「で、ここですよ、控え室。昼飯終わったらリハ開始なんで、その時また。」


話の途中で立ち止まっていたのには気づいてはいたが。
無駄に変な時間を過ごしてしまった。

そしてまた、1枚重たい扉を開く。