「私ね、この世界が嫌い」


「俺も別に好きではないけど」



「弱い人とかなにかが劣った人を炙り出してイジメをしたり、強い者同士が一番強い人になりたくて殴りあったり…そういうの、私はそういうのにもう関わりたくないの」



だからわざと殴られた?



「こーくんと別れてからもうケンカや殴りあいはやめようと思って族もちゃんと抜けた」

こーくん…久しぶりに聞いた。

俺のあだ名だ。

優衣しか使わない名前。


俺は今にも消え入りそうな優衣の声を一生懸命聞いた。



「でもね、やっぱりみんなは許してくれなくて。私が今まで殴った人とか御影桜(みかげざくら)のみんなが毎日のように押し掛けてきた。嫌って言っても通じなくて、結局殴らないと自分がケガしちゃうから殴って。」



「…」



「さっきの人達が来た時に思ったの。私がもう殴りあいが出来ないような体になったらもう、全部終わるかなって。でも、ボロボロになるまえにいっぱい血がでちゃってこんな小さなケガしか出来なかった」




俺は震える優衣の体を強く抱き締めた。



「ごめんな。辛い思いさせて。俺があの時、あんな事言わなかったらこんなことにならなかったのに…。ほんとごめん」



「ううん…こーくんのせいじゃないよ。全部…全部私が悪いの……ごめんね…こーくん」



優衣は俺の胸で泣き続けた。



今までの空白を埋めるように優衣は泣き続けた。




俺は優衣の体を抱き締め、優衣の背中をさすってやることしか…出来なかった。