ひらひらと、桜が舞う入学シーズン。


「なわけない。雪国の田舎は4月も冬だよ…」


はあ、と、溜め息をひとつ吐きながら、新居に向かう。


塙岸 楓(はなぎしかえで)。
今年から高校2年生である。
ちなみに私は、入学じゃなくて、転入。

父親が仕事で海外に単身赴任になったのだが、母があまりの寂しさについていき…。

アパート暮らしだったのだが、家賃が払えないので親戚の家に転がり込む事になり、そこから高校に通うのが厳しかったので、転入となったのだ。


「ここ…かな?」


母に渡された地図を頼りにして辿り着いたのは、古いけれど立派な一軒家だった。


「山田……うん、ここだ。でもどうしようかな……会うの私が赤ちゃんの時以来だって言ってたし入りづらいな……うーん」

「…人ん家の前で、何してるの?」

「いや、人見知りなもので入りづらく……て…?」


振り返れば、スーツを身にまとった若い男の人が居た。


まだ肌寒い風に、黒髪を揺らしながら。