ちょっと待ってよ、そんなの、無理に決まってるじゃない。


大体西本願寺って何処にあるわけ?


「たく、と、あたしにはむ..」


り、とまで言おうとしたところで拓登の手が放された。

そして急に立ち止まる。


「大丈夫。未華さんならきっと出来る」



まっすぐ見つめる瞳。


後ろから追いかけてくる声。


もう一度拓登を見ると大きく頷いた。



初めての江戸に来て。

まさかこんな事になるなんて思ってもなかったわ。


手にした硯箱をぎゅっと掴んで走りだした。



拓登がどうかうまく逃げてくれますように、そう祈りながら。