幼い頃、一度だけ拓登とこの丘に上った。


あの時、どうしてだか忘れたけれど、泣いてたあたしに拓登は黙ってあたしの手を握って、
ここに連れて来てくれたんだ。


そして夕焼けに染まるこの街の景色をあたしみ見せてくれた。




あれ以来、一度も此処には来ていない。



「何年ぶり、かしら?」


目の前に立つ大きな桜の木は、あの頃と何も変わっていない。


幹の色も、桜の花びらの綺麗さも、何もかも..



なんて浸ってる場合じゃないわ!


首を左右に振って余計な考えを取っ払う。


倉庫から拝借してきたスコップを持って地面に刺す。


土は少し硬いのか、なかなか奥へと進まない。