プリズム

「ありがとうございました」

初夏、梅雨前線が少し遅れてやってきた。
雨が降り続く中の、今日は唯一落ち着いた天気となった昼下がり
お客様が出て行ったのと同時に、ドアが開き、また 白色の眩しい光が隙間から少し小さめの店を照らした。

「いらっしゃいませ」

深々と笑顔でお辞儀した後、カウンターまでお客様を誘導した。
初めてのお客様の様で、実は人見知りの私としては少し緊張するものだ。
手がほんの少しだけ震える癖は、いまだに直っていない。

「今日はどうされますか?」

コルクのボードを控えめにお見せした。
お客様は「うーん」と悩むと、まだ少し迷いのある感じで言った。

「そうね、整体もやっていただきたいところですけれど、やはり今日はマッサージをしていただこうかしら」

少し豪勢なお洋服を着たマダムだ。
年齢をかえりみないようなタイプなのだろう、かなり派手だ。化粧も濃い。

「かりこまりました、それではこちらへどうぞ」

マダムをベッドまで誘導し、さっそくマッサージを始めた。
田舎育ちの私は、この東京に来てから、かなりイントネーションというものを意識するようになった。
この整体やマッサージの技術を教えてくださった上司に、たびたび笑われたものだった。
上司は、そのイントネーションも方言も可愛いからそのままいっちゃいなさいと言ったが、私はそれを拒んだ。
田舎者の見栄というものだろうか。

「今日は珍しくお天気がいいですね。これからどこかへ行かれる予定ですか?」

カーテンの隙間から漏れる光を見ながら、マダムに積極的に話しかけてみる。
マダムも寝ながら窓の方を眩しそうに眺めた。


「そうね。今日の夕方から孫に会う約束をしているの。だから楽しみで楽しみで、まずは疲れをとっていただこう思って。」

そう言ったマダムの顔は、孫を優しく見つめる優しいおばあちゃんの表情だった。

「お孫さんがいらっしゃるんですか。それにしてはまだお若いように見えたのですが」

少し驚いた感じで聞いてみた。
見た感じ50歳くらいかという印象を受けたのが、この時代にもそんなに若いおばあちゃんがそういるものなのか。

「あらら、ふふ、ありがとうね。孫って本当に可愛くて・・・あなたもいずれ分かるわよ。恋人さんはいらっしゃるんでしょう?」

「恋人・・・ふふふ」

私は腕を動かしながら、少し考えて言った。