「へ? あ……ん、久々にベートーヴェンに会いたくなった」

言って、ニカッと屈託のない満面の笑顔を見せる。


やめてくれ。クラクラするから。心臓をギュッと鷲掴みされたかと思った。



私が『猛烈きゅるるん』に侵されているというのに、綾子は全くもってノーダメージ。


「音楽室にベートーヴェンなんか居ないから。小学校じゃあるまいし。それに、田所が用あんのは、ベートーヴェンじゃなくて弁当でしょ?」

平然と指摘する。



「峰子ちゃん、巧いねー」

なんて言いながら、やっぱり田所は移動を始めた私たちについて来るのだ。




最近の田所はおかしい。私から離れない。


散々私のこと放置プレイして来たくせにさ、何だよ今更……。